Fortress Iron, LP v. Digger Specialties, Inc.
(Fed.
Cir.2026-04-02)
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共同発明者の欠落は特許無効につながる
Uncorrectable
Inventorship Defect: A Hidden Risk in Global Patent Practice
Summarized by Tatsuo YABE - 2026-04-09
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概要
2026年4月2日、米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は Fortress Iron v. Digger
Specialtiesにおいて、共同発明者の欠落が訂正不能な場合、特許は無効となることを明確にした。米国特許法256条は特許発行後に発明者の間違いを訂正するための、いわゆる「救済規定」である。一方、その適用には厳格な手続要件が伴うことを改めて示した点で、本件は実務上極めて重要である。
本件特許
本件特許(米国特許第9,790,707号等)は、屋外構造物に用いられるケーブル式手すりに関するものであり、特に、工場で予め組み立てられたパネル(Pre-Assembled Panel)として提供される点に特徴がある。従来のケーブル手すりは現場での組立作業を要するのに対し、本発明は上部レールおよび下部レール間に複数のケーブルを予め配置した構造を採用することで、施工の容易化および作業時間の短縮を実現するものである。また、ケーブルの張力付与時に生じ得る回転や不安定性を抑制するための構造的工夫が施されており、安定した外観および安全性を確保する点も重要な技術的特徴である。

事案の概要
本件発明の、基本となる構造はFortress社(米国)のSherstand氏とBurt氏により設計され、YD社(中国系企業)に試作を依頼したところ張力付与時にケーブルに回転が生じるという問題が発生した。この問題の解決にYD社の技術者2名、Lin氏とHuang氏が関与し技術的改良を加えて最終製品となった。しかしながら、YD社のLin氏とHuang氏は共同発明者として出願書類および特許証には記載されていなかった。訴訟の過程で、DSI(被告)が、当該2名は共同発明者であると主張し、Fortressもそれを認めた。共同発明者Lin氏については訂正証明書にて追加訂正がなされたものの、Huang氏(2016年にYD社を離職する際に連絡先を告げなかった)については所在不明であり、連絡を取ることができなかった。

この結果、本来の共同発明者Huang氏に対して256条(b)項に基づく訂正の前提である「通知(notice)および聴聞の機会(hearing)」を満たすことができず、訂正は認められなかった。
CAFCは、欠落した共同発明者は経済的利害の有無にかかわらず256条(b)項の「関係当事者 “party concerned”」に該当し、訂正のためには通知および聴聞の機会の付与が不可欠であると判示した。その上で、256条はあくまで「訂正可能な場合に限り」特許の無効を回避する規定であり、本件のように訂正が不可能な場合には、発明者の不記載はそのまま無効事由となると明確にした。すなわち、本判決は「共同発明者の欠落 → 音信不通 → 256条による訂正不能 → 特許無効」という構造を、現実の事案において明示的に適用したものである。
従って、本判決は、実務上見過ごされがちであった「発明者・訂正不能性」のリスクを顕在化させた点に特徴がある。従来は、発明者の誤記は後から256条により訂正可能であるとの実務感覚が一般的であったが、本判決はその前提が必ずしも成立しないことを明確にした。
まとめ
本判決は新たな法理を創設したものではないが、AIA後において、米国特許法256条の限界を実務上初めて明確に示した点で重要である。本判決は、発明者の正確な特定が単なる形式的要件ではなく、特許の有効性そのものに直結する本質的要件であることを再確認した。特許実務においては、発明者の認定・記録・連絡体制の整備を徹底することが、従来以上に重要となる。昨今、日本では大手企業においても社員の転職率は高くなっており、当然のことながら技術者に関しても同様である。よって、技術開発に関与した社員の離職後の連絡先を人事部できっちりと確認・記録しておくことは重要である。
以上
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考察
1.本件の争点は、Ethicon事件(原告適格の欠如が争点となった)とは明白に異なる
本件(Fortress事件)の意義は、Ethicon v. U.S. Surgical(以下参照)との対比によってより明確になる。Ethicon事件では、真の共同発明者Bが特許権を譲渡していなかったため、原告Aが単独で訴訟を提起した結果、原告適格の欠如により訴訟が却下された。すなわち、Ethiconは「誰が特許権者であるか」という所有権の問題であり、後から譲渡やライセンスにより是正可能な性質を有していた。一方、本件は発明者の不記載という問題であり、訂正不能であれば特許自体が無効となる。言い換えれば、Ethiconが「権利行使の可否」の問題であるのに対し、本件(Fortress事件)は「特許の存否」そのものの問題であり、より根本的かつ致命的な性質を有する。
2.AIA後(2011年の改正法)は出願時の宣言書の署名要件を緩和(代替書面)との関係
また、本判決はAIA後の実務との関係でも重要である。AIA以降、37 CFR 1.64等により、非協力的な発明者が存在する場合であっても、譲受人等が代替的に宣誓書を提出することで出願を進めることが可能となった。しかし、本判決が示すのは、これらの制度が解決するのはあくまで「署名が得られない」という手続上の問題に過ぎず、「誰が発明者であるか」という実体的判断の誤りを救済するものではないという点である。すなわち、AIAは手続的障害を取り除くが、発明者認定の誤り自体は依然として致命的リスクとなり得る。
3.非発明者を含む特許(発明者過剰記載)も、非発明者と音信不通の場合に特許は無効となるか?
非発明者を誤って含めた場合には裁判所で事実認定のうえ通常256条により非発明者を削除可能である。なぜなら、非発明者は本来権利を有さないので256条(b)項で云う「関連当事者」ではない。特許法の根幹において真の発明者は保護する必要があるが、非発明者を保護するものではない。それに対して、真の発明者を欠落させた場合には、訂正不能となることで特許が無効となる可能性がある。この意味で、「発明者の入れすぎ」よりも「発明者の欠落」の方がはるかに重大なリスクを伴う。
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米国特許法256条 - 発明者の訂正
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35 U.S. Code § 256 - Correction of named inventor |
米国特許法256条 - 発明者の訂正 |
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(a) Correction. — Whenever through error a person is named in an issued patent as the inventor, or through error an inventor is not named in an issued patent, the Director may, on application of all the parties and assignees, with proof of the facts and such other requirements as may be imposed, issue a certificate correcting such error. |
(a) 訂正 発行された特許において、過誤によりある者が発明者として記載された場合、または過誤により発明者が記載されていない場合には、長官は、すべての関係当事者および譲受人の申請に基づき、事実の証明およびその他要求され得る要件を満たしたときは、その過誤を訂正する証明書を発行することができる。 |
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(b)Patent Valid if Error Corrected. — The error of omitting inventors or naming persons who are not inventors shall not invalidate the patent in which such error occurred if it can be corrected as provided in this section. The court before which such matter is called in question may order correction of the patent on notice and hearing of all parties concerned and the Director shall issue a certificate accordingly. |
(b) 訂正された場合の特許の有効性 発明者の不記載または発明者でない者の記載という過誤は、本条の規定に基づき訂正可能な場合には、当該過誤がある特許を無効とするものではない。 当該事象が問題として争われている裁判所は、すべての関係当事者に対する通知および聴聞の機会を与えた上で、特許の訂正を命ずることができ、これに基づき長官は訂正証明書を発行するものとする。 |
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Ethicon, Inc. v. U.S. Surgical Corp., 135 F.3d 1456(Fed. Cir. 1998)
一部のクレーム主題に貢献した発明者を共同発明者とせず出願することで権利行使の段階で竹箆返し(しっぺがえし)を受けることを示した判例
本件は共同発明者に関する重要な判例である。 成立した特許のクレームの1項にでも貢献した(発明の着想に貢献した)者は当該特許全体に対する共同発明者となる。共同発明者は事前の契約(例:譲渡契約)が無い限りは特許権の共有者でもある。共同発明者は他の共同発明者の同意を得なくとも当該特許を第3者にライセンスを供与できる。但し、共同発明者Aが第3者を相手に訴訟を提起する場合には他の共同発明者Bも訴訟の原告として参加しなければならない。
発行された特許証に記録された発明者が正しければ良いが、特に、クレームの1項にでも貢献した人を共同発明者と記載せずに当該特許で権利行使をした場合には問題が生じる可能性がある。即ち、被告の側が特許証の記載から漏れている発明者を見つけた場合でその事実を証明できれば、その発明者からライセンスを受けること、さらには、そもそもの訴訟にその発明者は原告として参加していないことから原告側は原告適格を欠如とするという理由で訴訟が却下されるリスクがある。本件ではこの事態となり原告適格の欠如という理由で、地裁で却下となり、CAFCで地判決が支持された。
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【仮想例】権利者の原告適格と発明者欠落(日本で起こりうる例)
X社は、日本において技術者A、B、Cを雇用している。X社の雇用契約書には、「業務遂行中に生じた発明に関する権利は全て会社に帰属する」との条項が含まれており、A、B、Cはいずれも当該契約書に署名している。その後、A、B、Cは共同である技術を開発したが、Cの関与は相対的に小さく、また勤務態度にも問題があったため、X社はAおよびBのみを発明者として日本で特許出願を行った。Cはその後退職し、連絡が取れなくなった。
当該日本出願を基礎として、X社は米国に特許出願を行い、特許が成立した。その後、X社はY社に対して特許侵害訴訟を提起した。訴訟の過程で、Y社はCが共同発明者であることを指摘し、X社もこれを認めた。もっとも、Cとは連絡が取れないため、X社は米国特許法256条に基づく発明者訂正は困難であると考えた。これに対し、X社は以下のように主張した:
「Cは雇用契約に基づき、発明に関する権利をすべてX社に譲渡している。したがって、X社は単独で特許権を有し、原告適格も認められる。」
【設問】
【解説】
1. 日本の雇用契約書の効力
原則として、有効に認められる。
米国特許法において特許権の帰属は契約により決定される。したがって、雇用契約において「業務発明の権利が会社に帰属する」との条項があり、かつ当該条項が現在譲渡(hereby assigns)として機能する場合には、発明者から会社への権利移転は有効に成立する。本仮想例においても、Cが当該契約に署名している以上、Cの持分はX社に帰属すると判断される可能性が高い。
では何故、米国特許出願時に発明者がAssignment(譲渡書)に署名するのか? 日本での雇用契約書の文面は必ずしも米国特許の譲渡に必要な条項が全て盛り込まれているとは限らないので、実務上、米国特許出願時に再確認を兼ねてAssignmentに署名をする。
2. 原告適格(standing)
原則として認められる可能性が高い。
共同発明者の一人が特許権を保持している場合、他の共同発明者の同意なくして単独で侵害訴訟を提起することはできない(Ethicon v. U.S. Surgical:上記参照)。しかし、本仮想例ではCの持分が事前にX社に譲渡されているため、特許権はX社に集中している。
したがって、X社は単独で侵害訴訟を提起する適格を有する。
3. 特許の有効性(Fortress判決に鑑み)
本仮想例の核心はここにある。
米国特許法256条(b)項は、発明者の誤記が訂正可能である限り、当該誤記は特許の無効理由とならない旨を規定する。しかしながら、訂正のためには、すべての「関係当事者(parties concerned)」に対する通知および聴聞の機会が必要である。
本仮想例では、Cが真の共同発明者であるにもかかわらず特許に記載されておらず、かつ連絡不能であるため、当該通知・聴聞要件を満たすことができない。したがって、256条による訂正は不可能である。
この点について、CAFCはFortress事件(2026年)において、「訂正不能な発明者の誤記は特許を無効とする」と明確に判示している。
したがって、本仮想例では、
がいずれも認められる場合であっても、inventorshipの欠陥が訂正不能である以上、特許は無効となる可能性が高い。
【実務コメント】
本仮想例が示す重要なポイントは、特許実務において、ownership(権利帰属)とinventorship(発明者認定)は全く別の問題である。契約により権利帰属を完全に整理したとしても、発明者の記載に誤りがあり、それが訂正不能である場合には、特許そのものが無効となり得る。“Ownership is not a cure for inventorship”
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